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2011年5月27日 (金)

武蔵鐙〔むさしあぶみ〕

いま、『伊勢物語』を読んでいます。たいへん面白いです。
『伊勢物語』に限らず、日本の古典文学は、
「こんな短い文章で、本当にこれだけの内容が伝わっているの?」
と不思議に思うことが多い。

『伊勢物語』の第13段は「武蔵鐙〔むさしあぶみ〕」と言われている。
学校で習ったような、習っていないような・・・。

「鐙〔あぶみ〕」というのは、馬具〔ばぐ〕のひとつですね。
在原業平は、女性関係で失敗して京にいられなくなり、東へ向かいます。
馬に乗って東の国へ。
ずっと乗っていても疲れないように、馬にはいろいろな馬具がつけられています。
腰をかけるところが鞍〔くら〕、足を乗せるところが鐙〔あぶみ〕です。

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 中央が鞍、両脇が鐙

武蔵の国に行った業平は、京の女に手紙を送ります。
「聞ゆれば恥づかし、聞こえねば苦し」
(言うのは恥ずかしい、言わないのは苦しい)
そして表に「武蔵鐙」と書いた。

この短い文章で意味が分かりますか。

「武蔵の国に来たら、別の女が出来てしまいました」
「あなたのことは好きなままだけれど、一応お知らせしておきます」
という意味だそうです。

「鐙」というのが、二股のしるし・・・。
どちらにも足をかけて。
(本当は二股どころじゃないくせに~)

そんなお知らせをわざわざ送ることにも衝撃を受ける私であるが~~、
この文面で伝わってしまうことにも驚きを禁じ得ない。
ほとんど暗号。テレパシー。

こんな手紙、読むのが鈍い人だったら伝わらないのではないかと思いますが、
伝わる確信があったのですね。
私の女はこれを理解するであろう。

女のほうでも、「ひょっとしたら」「やっぱり」って、
そういうことばかり考えていたら理解できてしまうのでしょう。

『源氏物語』には何年かごとにブームがあるけれど、
伊勢物語ブームは来ないのだろうか。今年あたり。

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