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2012年2月 8日 (水)

「勧進帳」あれこれ

弁慶が読み上げる勧進帳の内容について、
能の愛好家にはわりと知られているようですが、
歌舞伎の愛好家にはわりと知られていないようなので、
ここで確認しておきます。

弁慶が読み上げる勧進帳の内容
●東大寺建立の由来は?
きっかけは聖武天皇が最愛の夫人を亡くしたことによる
●誰が勧進を行っているのか?
俊乗坊重源〔しゅんじょうぼうちょうげん〕

中頃〔なかごろ〕
歴史上、あまり遠くない昔。中ほどの時代。
「コトバンク」より

大恩救主〔だいおんきょうしゅ〕(=釈迦)の時代に比べたら、聖武天皇の御世は、確かにあまり遠くない。

「最愛の夫人〔ぶにん・ふじん〕に別れ」
聖武天皇の最愛の夫人と言ったら、光明皇后〔こうみょうこうごう〕しか考えられないのだそうです。
ここで「おや?」と思ったあなた、あなたは深い教養をお持ちの方ですね。そうです、光明皇后は聖武天皇より後に亡くなっているのです。

752年 大仏開眼供養
756年 聖武天皇 崩御
758年 大仏殿竣工
760年 光明皇后 逝去
1181年 南都焼討〔なんとやきうち〕
(平清盛の五男・重衡〔しげひら〕らが、東大寺や興福寺など奈良の仏教寺院を焼き討ちにした)
1181年 後白川法皇が俊乗坊重源を東大寺大勧進職に任命
1185年 大仏開眼供養
1186年 義経一行が京都を出立する(87年説もあり)←ここが「勧進帳」
※この時代の天皇は後鳥羽天皇
1195年 大仏殿落慶法要


光明皇后は、聖武天皇の遺品を東大寺に納めました。手元に置いておくと聖武天皇のことを思い出して悲しいので、手放したのだそうです。正倉院宝物として現代まで伝わっています。歴史の上では、「光明皇后が聖武天皇の死を悲しんだ」のであり、「聖武天皇が光明皇后の死を悲しんだ」はずがありません。しかし、東大寺建立の縁起を「聖武天皇が光明皇后の死を悲しんで」という理由にしている書物が複数存在するのだそうです。また、東大寺落慶供養の日に、光明皇后が冥途から玉の輿で送り返された、という説話もあるそうです。

現代では一般的に、東大寺建立のきっかけを、「幼い皇子を亡くした悲しみから」としているようですが・・・。
しかし、本当の由来を知るのは、なかなか難しいことだと思います。聖武天皇の御心を察するのは、難しいと思います。

富樫は本物の勧進帳を読んだことがあったのか?
弁慶は本物の勧進帳を読んだことがあったのか?
それは分かりませんが、富樫としては、弁慶をテストしているわけですから、いくつかのチェックポイントがあったと思うのです。東大寺建立の由来は、最重要ポイントではないでしょうか。ここで間違ったことを言ったら、その場で弁慶は殺されてしまいます。

現代を生きる私たちは、書物やインターネットで東大寺縁起を手軽に調べることが出来ますが、当時はごく限られた人しか知ることのできぬ秘密であったかもしれません。

ところで、
仮に日本語の能力をランク分けした場合、
①漢詩が書ける
②漢詩が読める
③和歌が書ける
④和歌が読める
⑤ひらがなが書ける
⑥ひらがなが読める
⑦何も読めない
弁慶は①のランクに相当する人物だと思います。
現代日本人の99%は⑦に相当します。明治時代以前の基準によれば、現代日本人は無筆に分類されるのです。だって江戸時代の書物は全く読めないでしょう?
「勧進帳」の弁慶は、①に相当する歌舞伎俳優によって演じられるべき役だと思います。①の俳優に⑦の役を演じることは出来ても、⑦の俳優に①の役を演じることは出来ません。

「帰命稽首」
南都ではケッシュ、北嶺〔ほくれい〕ではケイシュと言う慣例だそうです。弁慶は北嶺(比叡山)出身の設定ですが、勧進帳は南都の文章ですから、ケッシュと読むのが良いのではないでしょうか。弁慶は、それくらいのことは知っていたと思います。
観世流・・・ケッシュ
宝生流・・・ケイシュ
※下掛りは「帰命施主〔せしゅ〕

弁慶は、どのように情報を入手していたのでしょうか?もともと仏教徒ですから、仏教に関する情報に常々アンテナを張っていたのだと思いますけれどね。アンテナを張っている人にしか入ってこない情報というのが存在するんですよね。「その情報をつかんでいる」っていうのは、確かな証拠となり得るんですね。
富樫は、勧進帳を覗き込まなくても、本物か偽物か判別できる自信があったのでしょう。もちろん富樫も①の人だと思います。

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