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2015年5月22日 (金)

露の干ぬ間の朝顔

先日、根津美術館に行ってきたのです。俵屋宗達の「蔦の細道図屏風」が展示されていました。この屏風を初めて見たのは2008年、東京国立博物館「対決 巨匠たちの日本美術」の時だったと思います。図中に書かれた歌が読めなくて、悔しかった。読めなくても美しいけれど、読めたらもっと何倍も美しいはずなのに、なぜ私は読めないのだろう。文学部日本文学科を卒業しているのに。

大学の文学部にもいろいろありまして、東大や早稲田くらいになると、古文書も読めるようになるみたいですね。つまり偏差値が70くらいはないと駄目なんでしょうね。私は法政(偏差値60くらい?)だったので、お話になりません。

それで、根津美術館で久しぶりに「蔦の細道図屏風」を見たら、書いてある歌がだいたい読めました。としをとるのも、まんざら悪いことばかりではない。
字が読めないとか、『伊勢物語』を知らないとか、そういう状態で「蔦の細道図屏風」を見ても作品の魅力を十分に楽しめないと思うんですね。作った人は、そういう人に向けて作ったわけではありませんから。

いま、高野切とか、本阿弥光悦の文字なら、少しは読めるのではないかと思う。
でも浄瑠璃の丸本は読めないですねえ。

私は文楽の大夫に対する憧れとか尊敬の念があって、自分がやろうとは思いませんが、かっこいいなと思います。
一番好きなのは嶋大夫師匠で、師匠に親子丼をごちそうになったのが私の人生のハイライトだったのではないかと思う・・・。
今月の『桂川連理柵』はもう本当に最高の舞台ですね。

「道行朧の桂川」の冒頭に、『伊勢物語』第6段「芥川」からの引用がありますね。プログラムでも「芥川」について触れておこうかと思ったのですが、文楽を見に来るような方は知っているだろうと思って、触れませんでした。
でもこの絵は紹介しておきたかったですね。
Akutagawa


露と言えば~~、
『生写朝顔話』の中に「朝顔の歌」が出てきます。(和歌ではなく琴歌ですね)

露の干〔ひ〕ぬ間〔ま〕の朝顔を、照らす日影〔ひかげ〕のつれなきに、あはれ一村雨〔ひとむらさめ〕の、はらはらと降れかし

この歌は浄瑠璃作者が考えたものではなく、熊澤蕃山〔くまざわ・ばんざん〕という儒学者が作ったものだそうです。
「朝顔の花よ、まだ萎〔しお〕れないでおくれ」という歌であることは分かるのですが、「露の干〔ひ〕ぬ間〔ま〕の朝顔」という意味がずっと分からなかった。でも先日分かりましたので、誠に僭越ながらここで少し解説させていただきます。

露というのは、儚〔はかな〕いものの代表として、よく和歌に出てきます。しかし何も露ばかりが儚いわけではなく、他にもいろいろ儚いものがあり、花で言えば朝顔が儚い。

早朝に生じて、日が昇ると消えていく露。
早朝に咲いて、日が昇ると萎れてしまう朝顔。
露が消えるのと、朝顔が萎れるのと、どちらが早いだろうか。

露もまだ乾いていないのに、早くも朝顔が萎れそうだ、雨でも降ったならば、もう少しだけでも朝顔の命を延ばすことが出来るだろうに。
「露の干ぬ間の」というのは、「儚いと言われる露でさえ、まだ消えていないほどなのに、早くも」という修飾であると思います。

この歌の「朝顔」というのは隠喩であって、朝顔によそえて別の気持ちを歌っているんですね。つまり、2人幸せだった時間はあまりに短かった、でもまだ終わったわけではない、短いのは分かっているけれど、せめてもう少しだけ続いてほしい。
阿曽次郎からもらったこの歌にすがって、深雪は生きていたのでしょうね。

深雪は朝顔と名乗っているわけですが、夏狂言だけに名前が涼しい感じ・・・。(冬女から夏女へ)

「あはれ一村雨の、はらはらと降れかし」というのは雨乞いの歌でしょうが、「ちょっと降ってほしい」という願いが大雨になり、川止めとなるのは、皮肉な展開でございます・・・。

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2 文楽」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
私も嶋大夫さん、大好きです。『桂川連理柵』よかったですね~。なんであんなに艶っぽいのでしょうか。おじいちゃんなのに・・・。

わたくし、もういい年をしたおばちゃんですが、歌舞伎と文楽を見始めて10年足らず。ここにきてやっと、古典がわからないと面白くないと気がつき始めました(遅い)。
とりあえず平家物語から始めています。先は長い・・・


『平家物語』から始めてらっしゃるんですか。長くて大変だと思いますが、素敵ですね!


嶋大夫さんの御馳走の親子丼、ものすごく羨ましいです~。

嶋大夫さん、昨年うちの近くの能楽堂に来られ(トーク付きの公演でした)、ご家族のこと、入門の日のこと、若太夫師匠のこと、初めてお母様の前で語った日のことなどを少年のようなお顔で話されていた姿に、聞いている私までニコニコしてしまいました^^
本当に本当に文楽が大好きで愛していらっしゃるんだなぁと。
素敵な方ですね。

嶋大夫さんと親子丼、羨ましいです(二度目)。


国立文楽劇場で宣伝と編集の仕事をしていた頃で、運のいい時期だったのでしょうね。その代わり、毎日夜中まで仕事をしていましたけど・・・。

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