ドニゼッティ《ロベルト・デヴェリュー》
台本:サルヴァトーレ・カンマラーノ
日本語訳:ふくきち
第1幕
第1場 ウエストミンスター宮殿の大広間
■婦人たち:
見て、彼女を
何て青ざめた顔
ひどい悲しみが心を埋め尽くしているのね
〔サラに近づいて〕
サラ、侯爵夫人、そんなに悲しまないで
なぜ悲しんでいらっしゃるの?
■サラ:
悲しんで…?
■婦人たち:
泣いているのでしょう?
■サラ:
(ああ、いつの間に…)
ロザムンドの悲劇を読んでいたものですから
■婦人たち:
そんな本を読むのはおよしなさい
あなたの悲しみが増すばかりよ
■サラ:
私の悲しみ?
■婦人たち:
そう、私たちに打ち明けてみて
■サラ:
それでは、あなたたち本当に…
■婦人たち:
さあ、信用して
■サラ:
私が?いいえ、私は悲しんでなどいないわ
■婦人たち:
(無理に笑った顔は泣き顔より痛々しいわね)
■サラ:
<ロマンス>
「涙の甘美」
(涙の甘美、それは
苦しむ者に残された唯一の慰め
今の私には泣くことさえも許されない
私の運命はあなたの運命より残酷よ、ロザムンド
あなたは処刑されたけれど
私は死んだまま生きていくの)
〔エリザベッタの登場〕
■エリザベッタ:
あなたの夫の強い要望で
もう一度、伯爵に会うことにしました。ついに…
でも、彼に会うのはこれが最後だとか
彼の裏切りを知ることになるとか
そんなことは信じません
■サラ:
彼はいつでも女王陛下に忠実でしたが…
■エリザベッタ:
女王陛下に忠実?
それは確かなの?サラ
私には、彼が忠実だという確証が必要なのよ
■サラ:
(恐い…)
■エリザベッタ:
あなたには全て話しましょう
強い疑いに苛まれているのです
私の命令で、彼はアイルランド沿岸に行きました
私は彼をロンドンから遠ざけたかったのです
…彼は反逆の罪でここに戻ってくる
でも、私が恐れているのは彼の別の罪
もし彼が他の女を愛していたら
ああ、何てこと、ああ!
絶対に許さない
■サラ:
(消えてしまいたい)
■エリザベッタ:
私からロベルトを盗むのは
この王冠を盗むのと同じ罪よ!
<カヴァティーナ>
「愛の贈り物」
彼の愛が救いだった
天からの贈り物のような
愛することは、王座よりも偉大な喜び
ああ、もし裏切られていたとしたら
あの心がもう私のものでないとしたら
人生の喜びは全部、悲しみと苦しみに変わるのだわ
■セシル:
議会を代表して参りました
■サラ:
(体が震える!)
■エリザベッタ:
聞きましょう
■サラ:
(女王陛下のお顔に憎悪の影が!)
■セシル:
反逆の罪でエセックス伯を捕らえました
女王陛下があまりにご寛大なので裁判が進みません
判決を申し渡すこと
裏切りの計画を阻止すること
これは議会の権限です
この権限の行使に女王陛下のご同意を
■エリザベッタ:
議員、彼の罪には別の確かな証拠が必要です
■召使い:
エセックス伯が謁見を願っております
■セシル、グァルティエーロ、サラ:
彼が…
■セシル、グァルティエーロ:
(ああ、怒りがこみ上げる)
■エリザベッタ:
通しなさい。聞きたいことがあります
■サラ:
(耐えられない)
「あの頃のあなたのままで」
■エリザベッタ:
(ああ、ふたり幸せだった頃のあなたのままで戻ってきて
そうすれば何も恐れることはないのよ
この国が、いえ全世界があなたに死刑を求めたとしても
あなたが私を愛してくれるなら
必ず無実に翻してみせるわ)
■サラ:
(もし天が彼の味方をするなら、それは私にとって悲劇です)
■セシル、グァルティエーロ、廷臣たち:
(彼の運命はまだ決まっていない)
■エリザベッタ:
(来て、来て、早く
ああ、ふたり幸せだった頃のあなたのままで戻ってきて
そうすれば何も恐れることはないのよ
この国が、いえ全世界があなたに死刑を求めたとしても
あなたが私を愛してくれるなら
必ず無実に翻してみせるわ)
■ロベルト:
女王陛下、お足元に馳せ参じました
■エリザベッタ:
ロベルト!
伯爵、立ちなさい
〔セシルに向かって〕
議会への返事はすぐにします
皆さん、一旦退出を
〔ロベルト以外、全員退出する〕
疑わしい人、私の前に戻ってきたのね
それで、お前は私を裏切ったの?
この頭の、由緒ある王冠を奪い取るつもり?
■ロベルト:
傷だらけの私の胸をご覧ください
女王陛下の敵が残した剣の痕跡
これでお分かりいただけるはずです
■エリザベッタ:
しかし告発が…
■ロベルト:
告発とは何のことです?
反逆軍を戦場から逃がしたのは、敗者に情けをかけただけ
それが私の罪なのですか
女王陛下のご命令で断頭台が用意されたというわけですね
この私のために
■エリザベッタ:
女王陛下のご命令…
ぶしつけな男、言葉に気をつけなさい
私の命令があるから、お前はこうしていられるのよ
けれど、断頭台とは何のことかしら
厳しい法の裁きも、お前を死へ追いやることはできません
私の軍隊がカディスに攻め込む
その知らせのラッパが鳴ったとき
お前は遠くで、嫉妬や怒りをかって
失脚させられることを恐れていたのね
〔ロベルトの指にはめられた指輪を見て〕
私があげた、その指輪!
あげたときに言ったわね
その指輪を差し出せばいつでも
王家の加護を保証するって
ああ!指輪を見たらよみがえったわ
希望に満ちた甘い日々
ああ、思い出すわ
<二重唱>
「人生は愛の夢」
■エリザベッタ:
優しい心が私を幸せにした
言葉にならない喜びがあることを知った
人生は愛の夢
でも、その夢は消え去り、心は変わっていく
■ロベルト:
(王座なんてどうでもいい
人生は私に微笑まなかった
世界は静かで空しい
王冠の宝石も輝きをなくしている)
■エリザベッタ:
黙ったままなの?
〔優しく叱るように〕
それでは、あれは本当なのね
あなたは変わってしまったのね?
■ロベルト:
いいえ、何を仰っているのですか!
女王陛下の一言で軍隊は立ち上がり
すぐさま敵と戦います
私の服従と勇気の証しをご覧にいれます
■エリザベッタ:
(それは愛の証しではないわ!)
〔平静を装って〕
戦いが好きなのね。でも教えて
お前はその目を涙に濡らしたことはないの?
■ロベルト:
(ああ、どういうことだ?)
■エリザベッタ:
危険に身をさらすとき
胸の高鳴りを感じたことは?
■ロベルト:
胸の高鳴り?
■エリザベッタ:
誰かとの愛に燃えた、その胸の
■ロベルト:
ああ!それではご存じなのですね?
(しまった、私は何を言っているんだ)
■エリザベッタ:
それで?続けて
打ち明けてみて
何を遠慮しているの?さあ、さあ
愛する人の名前を言ってごらんなさい
私が二人を取り持ってあげましょう
■ロベルト:
誤解です
■エリザベッタ:
(ああ、恋敵め!)
〔恐ろしいまでの威厳を持って〕
お前は恋していないの?さあ!
■ロベルト:
私が?いいえ
「恐ろしい閃光」
■エリザベッタ:
(閃光、恐ろしい閃光が目をかすめる
罪深い女を逃しはしない
不実な裏切り男は死ぬのよ
彼は苦しんで死ぬの
その苦しみを通じて、自惚れ女を処刑してやるわ)
■ロベルト:
(隠して、鎮めて、胸の高鳴り
哀れな私の心臓よ
涙だけに濡れた報われぬ愛
疑いの犠牲はどうか私だけに…
秘密の愛が、私の死を見守るだろう)
女王陛下!
■エリザベッタ:
それで?続けなさい
伯爵!
■ロベルト:
女王陛下!
■エリザベッタ:
恋していないの?
■ロベルト:
私は恋などしていません
(隠して、鎮めて、胸の高鳴り
哀れな私の心臓よ
涙だけに濡れた報われぬ愛
疑いの犠牲はどうか私だけに…
秘密の愛が、私の死を見守るだろう)
■エリザベッタ:
(死刑!
その苦しみを通じて、自惚れ女を処刑してやるわ)
〔エリザベッタは自分の部屋へ去る〕
■ノッティンガム:
ロベルト!
■ロベルト:
君か
■ノッティンガム:
顔が青いぞ!ああ、もしかしたら…
聞くのが恐い
■ロベルト:
女王陛下はまだ処刑を決めていない
でも、その恐ろしい目をみたら
私の血を求めているのが分かった
■ノッティンガム:
やめろ、僕は不安で一杯なのに
■ロベルト:
ああ、もう放っておいてくれ
彼女とふたり幸せに暮らして
不幸な私のことなど忘れるのだ
■ノッティンガム:
何を言ってる?
ああ、どうぜ僕は君の親友にもなれず
幸せな夫にもなれないんだ
■ロベルト:
何だって?
■ノッティンガム:
僕には分からない悲しみがサラを苦しめている
彼女はもう死にそうなんだ
■ロベルト:
(彼女は私を裏切った、でも可哀相だ)
■ノッティンガム:
昨日は静かな日だった
いつもより早く眠りについた
ふと目を覚まし、彼女がよく使う部屋の前を通った
すると抑えた泣き声が聞こえてくる
彼女は、青いスカーフに金の糸で刺繍していた
でも、泣いて手を止める、そして呟くんだ「死にたい」って
恐くなって僕は逃げ出した
何が何だか分からない、気が狂いそうだ
<カヴァティーナ>
「涙のわけ」
彼女は泣いている方が普通なんだ
あまりにも感じやすくて
その悲しみと一つになりたいと思った
苦しくて僕も泣いたよ
けれど分からない、彼女の涙のわけ
ときどき「ひょっとしたら」と疑う
けれど、すぐに消えてしまう
天使の心の中までは
誰も見ることができないのだから
■セシル:
来たまえ、侯爵
女王陛下が議会を招集された
■ノッティンガム:
議題は?
■セシル:
延ばされすぎた判決について
■ノッティンガム:
すぐに行こう。友よ!
■ロベルト:
君の目が涙に濡れている
私のことは放っておいてくれ
■セシル:
来たまえ
「聖なる声(サンタ・ヴォーチェ)」
■ノッティンガム:
君を助けたいんだ
みんなが君を裏切り者と言う
恐ろしい運命に取りつかれた君
けれど僕は信じよう
天も地も味方してくださる
命も名誉も僕が守る
神よ、この唇から聖なる友情の声を!
■ロベルト:
(わたしほど苦しんでいる者はいない)
■廷臣たち:
(高慢な男は罪を償うことになる)
来い、侯爵、来い、来い
第1幕
第2場 ノッティンガムの館公爵夫人の居間
■サラ:
静かだわ…、この心の中にだけ、私を責める声が!
でも私は無実、分別があります
愛ではありません
ロベルトの危険が私の危険を忘れさせる…
誰か来たわ
あなたね!
■ロベルト:
ひどい人だ、あんなに愛し合っていたのに
嘘だったのか!裏切り者!浮気者!
どんなになじっても足りやしない
■サラ:
聞いて。あなたが遠くに行ったあと
父が亡くなったの
「孤独になったお前には、守ってくれる人が必要ね」
女王陛下が仰ったわ
「私が良い縁談をまとめてあげましょう」
■ロベルト:
それで君は?
■サラ:
断ったわ。無理やり連れて行かれたのよ
初夜のベッドへ…いえ
死のベッドよ!
■ロベルト:
ああ神様!
■サラ:
私は幸せじゃないけれど、あなたには幸運だった
女王陛下を愛するのよ、ロベルト
■ロベルト:
ああ、言うな!
死ぬほど君を愛してるんだ
■サラ:
あなたのしている指輪
王家の愛の印ね
■ロベルト:
愛の印?何も知らないくせに
これで疑いも晴れるだろう
〔指輪をテーブルに投げる〕
君のためなら千回でも命を投げ出すよ
■サラ:
ロベルト、サラの一生のお願いよ
■ロベルト:
それならいっそ私の血を望んでくれ
全て流そう、君のために
■サラ:
海から逃げて、そして生きていて
■ロベルト:
それは本気なのか?
ああ、信じられない
■サラ:
私を愛しているなら
もう会わないで、永遠に
■ロベルト:
永遠に!
サラの心がこんなに変わっていたなんて
私のことが嫌いなのか
■サラ:
ひどい人!
死ぬほど好きよ
<二重唱>
「焼けぼっくいの二重唱」
■サラ:
あなたが戻ってから、惨めだった
弱虫なこの心
消えかかった炎が再び燃え始めた
ああ、行って!ああ、遠くへ!ああ、私を捨てて!
どんな運命が待っていても
生きていて
もう私を傷つけないで
■ロベルト:
ここはどこだ?おかしくなりそうだ
生死をさまようみたいに…
君は私を愛してる
そして私は君を失う
偉大なる力よ、私に強さを与えてくれ
人の心には始めから
そんな強さはありはしないから
もう涙を拭いて
分かった、逃げるよ
■サラ:
誓って!
■ロベルト:
誓おう!
■サラ:
いつ逃げるの?
■ロベルト:
静かな闇が訪れたら
夜のとばりに紛れて
今は駄目だ
夜明けの光が…
■サラ:
ああ、危ないわ、早く
誰かに見つけられたら!
■ロベルト:
恐ろしい
■サラ:
最後に
不幸な愛の印
これを持っていって
〔スカーフを渡す〕
■ロベルト:
ああ、ここに
この傷づいた心の上に掛けていこう
■サラ:
行って!神様に祈るときだけ私を思い出して
さようなら!
■ロベルト:
永遠に!
■サラ:
ああ、さみしい
■ロベルト:
ああ、残酷な運命
「最後の最後のさようなら」
■サラ&ロベルト:
この「さようなら」が最後の最後
悲しみの水底
心をひたす灼熱の涙
ああ!私たちはもう二度と会わない
もう二度と
死んでいくような気持ちがする
別れの言葉に、一生分の悲しみをこめて
第2幕 ウエストミンスターの大広間
■廷臣たち:
時は過ぎ、夜が明けた
議会は続いている
女王が助けぬ限り
彼の破滅は確定する
■婦人たち:
静かに、みなさん。エリザベッタは
復讐に取りつかれ
焦り、さまよっています
何も聞かず、何も言わず
■廷臣たち:
哀れな伯爵!
怒れる空から
たれこめる黒雲
運命は決まった
沈黙の中で
死が口を開く
■エリザベッタ:
それで?
■セシル:
被告の運命について
長く議論されました
友情からなのか
伯爵は熱心に彼をかばいました
しかし無駄
伯爵自身が判決文を持ってきます
■エリザベッタ:
それで判決は?
■セシル:
死!
■グァルティエーロ:
女王陛下
■エリザベッタ:
議会をもう一度
ここに召集しなさい
〔グァルティエーロとエリザベッタを残し一同去る〕
遅かったわね
■グァルティエーロ:
夜明けまで彼が
邸宅へ戻らなかったのです
■エリザベッタ:
続けて
■グァルティエーロ:
彼は丸腰でした
秘密の手紙など隠していないか
調べているうちに
部下が彼の胸から
絹のスカーフを見つけました
没収を命じると
狂ったように怒り
「この心臓を裂いてからにしろ」
…しかし抵抗も無駄でした
■エリザベッタ:
そのスカーフは?
■グァルティエーロ:
ここに
■エリザベッタ:
(許せない
愛の証し…)
私の前に引き連れよ
千の怒りがこの胸に!
<二重唱>
「助命の二重唱」
■ノッティンガム:
こんなに悲しい気持ちで
拝謁するのは初めてです
不幸な任務により
〔証書を手渡す〕
エセックス伯の判決です
臣下ではなく彼の友人として
申します、彼に代わって
「お慈悲を!」
断れますか
エリザベッタの御心が?
■エリザベッタ:
この心はすでに
彼の死刑を決意しました
■ノッティンガム:
何てお言葉!
■エリザベッタ:
まだ知れぬ恋敵の家へ
行っていたのよ彼は
そう、まさに今夜
私を裏切って
■ノッティンガム:
何を仰って…
それは間違いです
■エリザベッタ:
もうやめて
■ノッティンガム:
誰かの罠だ
■エリザベッタ:
いいえ、間違いないわ
裏切りの
確かな証拠が
〔死刑宣告にサインする〕
■ノッティンガム:
何を!お待ちください…お聞きを
どうか怒りの炎を彼に落とさないでください
これまでの私の忠義にお応えください
泣いてお願いします
陛下の足元にひれ伏して
■エリザベッタ
お黙り。慈悲、情け、
いいえ、不実者には無用だわ
裏切りは明白となった
死刑、
慈悲を乞ううめき声さえさせずに
<三重唱>
「死刑宣告の三重唱~死は首の上に」
(来たわね軽薄者)
近くへ
高慢な顔をあげなさい
お前に何と言った?思い出して
「恋していないの?」言ったわね、伯爵
「いいえ」応えたわね、「いいえ」「いいえ」
裏切り者、卑怯者、大うそつき
私の沈黙の告発者よ
見るがいい、死の恐怖が
彼の心臓を捕らえるわ
〔スカーフを見せる〕
■ノッティンガム:
何!
〔気づいて〕
(恐ろしい光が!
…サラ)
■エリザベッタ:
やっと分かったか!
■ロベルト:
(神よ!)
■エリザベッタ:
不実な魂、醜い心
逆鱗に触れたわね
地獄の炎に焼かれる前に
畏れ多きエンリーコ八世の
娘に背信する前に
生きながら墓に埋まればよかったのよ
おお、裏切り者
■ノッティンガム:
嘘だ…狂ってる
恐ろしい、悲惨な夢
いいや、人の心が
こんなふうに裏切れるはずはない
なのに彼は青ざめていく
ああ!何て目で見るんだ
百の罪が透けて見える
その目に、その顔に
■ロベルト:
過酷な運命に終わりはないのか
だが自分のことはいい
あの不幸な女の危険が
私の勇気を挫けさせる
彼の険しい眉毛に
殺意が走っている
ああ、あのスカーフは死の印
愛ではなかった
■ノッティンガム:
悪人め!心の奥に
そんな悪意を隠していたのか
そこまで裏切れるものなのか…
女王陛下を?
■ロベルト:
(地獄の苦しみ!)
■ノッティンガム:
剣、剣だ今すぐに
臆病者を引き渡せ
奴の体を引き裂いて
その血で罪を清めてやる
■エリザベッタ:
おお我が忠臣よ、お前にも分かるのか
この身を震わす屈辱が
〔ロベルトに〕
よく聞ききなさい
処刑台は用意済み
その女の名前を言えば
命ばかりは助けてやるわ
言いなさい、言うのよ!
〔一瞬の沈黙〕
■ノッティンガム:
(運命の一瞬!)
■ロベルト:
いっそ死刑に!
■エリザベッタ:
頑固者!いいわ
〔女王の合図で、
議員、婦人、従者、護衛たちが入ってくる〕
皆の者、聞きなさい
私は議会からその男の
死刑宣告を受け取り
同意しました
よいか、
昇り始めた太陽が
天頂に達したとき
大砲の音を響かせて
それを処刑の合図とせよ
■廷臣たち:
(悲しみの日、唐突な死)
■エリザベッタ:
行け!
行け、死は首の上に
恥は名前の上に
墓は私が用意しよう
誰も泣きには行かせない
罪人どもの遺灰の中に
お前の遺灰を撒いてやるわ
■ロベルト:
斧はこの血に塗られても
恥にまみれることはない
女王の怒りが奪えるものは
名誉ではなく命だけ
■ノッティンガム:
いいや、剣では殺さない
不名誉な悪人は
断頭台に消えるのだ
そんな苦しみくらいでは
胸の怒りは納まらないが
■セシル&グァルティエーロ:
斧がその首の上に…
お前の名前も呪われた
■廷臣たち:
墓の中でさえ罪人は
安らぐことはできないだろう
〔エリザベッタの合図でロベルトは取り囲まれ、
連れて行かれる〕
第3幕
第1場 ノッティンガムの宮殿
■サラ:
夫はまだ帰ってこない
■召使い:
奥様!
近衛兵がひとり訪ねてきました
かつてロベルトの配下だった者です
手紙を持っていて
奥様に手渡したいと
■サラ:
通して
〔兵士が黙って夫人に手紙を渡す。
そして兵士と召使いは去る〕
〔彼女は急いで手紙を読む〕
■サラ:
ロベルトからだわ
何てひどい
死刑判決が下された
でも私は知っている、この指輪の力を
彼の命を約束するはず…
こうしてはいられない
今すぐエリザベッタの許へ
■サラ:
(侯爵!
何て怖い顔)
■ノッティンガム:
手紙を受け取ったな?
■サラ:
(神様!)
■ノッティンガム:
サラ!見せろ
■サラ:
あなた
■ノッティンガム:
あなた、か
命令だ、手紙を出せ
■サラ:
(終わりだわ)
■ノッティンガム:
〔手紙を見て〕
ではお前には
奴の命を救う手段があるな
宝石を受け取ったのか!いつだ?
昨夜、愛の印として
金の刺繍のスカーフを
奴の胸に掛けた時か?
■サラ:
ああ何てこと
全部知っているのね
■ノッティンガム:
そうだ、全部だ
お前は知らなかったのか
裏切られた者には復讐の神がついている
罪びとの悪は全て暴かれる
嘘つき女、恐れるがいい
ここにいる復讐の神を
■サラ:
ああ、殺して
■ノッティンガム:
まだだ、裏切り者
ロベルトが生きているうちは…
友のためにこの胸に
温めていた甘い愛
まるで神聖なもののように
ああ、私は妻を愛していた
奴らのために死ぬほどの苦しみ
裏切り者は誰だ?ああ惨めな!
友と妻だ!
馬鹿な女!泣いても無駄だ
流すのは血、涙じゃない
■サラ:
過酷な運命はこんなにも
私たちを責めるの
無実の人が罪びとになるなんて
この心をご存じの神様
友は悪人ではないと夫に教えて
そして私の心も体も
裏切ってはいないことも
〔処刑の行進が聞こえる〕
死を告げる音?
〔警護に囲まれたロベルトが遠くに見える〕
■ノッティンガム:
奴が処刑台へ連行される
■サラ:
震えが血管を流れていく
断頭台が立てられた
時が近いわ
神様、助けて
■ノッティンガム:
待て!
どこへ行く?
■サラ:
女王陛下の許へ
■ノッティンガム:
まだ奴を助ける気か
■サラ:
行かせて
〔振り払おうとして〕
■ノッティンガム:
馬鹿な!それほど!…おい!
〔侯爵邸の衛兵たちが来る〕
館をこの女の監獄にしろ
■サラ:
ああ神様!
許して
私を壊す悲しみを見て
一瞬だけ許してください
誓うわ、逃げません
すぐに戻ります
その時にお望みならば
百回でも私を刺して
私を刺すあなたの手に感謝するわ
■ノッティンガム:
汚された私の誇りが
恐ろしく燃える、吼える
お前の言葉の全て
お前の涙の全てが罪
ああ、苦痛が短すぎる
奴が死ぬだけでは
神よ!私を裏切った魂に
永劫の苦しみを!
第3幕
第2場 ロンドン塔の監房
■ロベルト:
そしてまだ扉は開かないのか
恐ろしい予感が!
いや、あの使者は頼れる奴
指輪で助けてくれるはず
戦場でもあの指輪があれば怖くなかった
サラの潔白を明かすまで私は死ねない
私から最愛の女を奪った君よ
君の剣にかかって死のう
私を斬るのは君しかいない
<アリア>
「監獄のアリア~天国の涙」
泣きながら君に言おう
死神に抱かれて…
天使の魂のように
君の彼女は清らかだ
誓う、私の血潮を証しにして
この唇の最後の言葉を信じてほしい
いまわの言葉に嘘はつけない
〔足音が近づいてくる
鍵を回す微かな音〕
鍵の音
そうだ扉が開く
ああ!許しが出たのか
■番人:
来い、伯爵
■ロベルト:
どこへ?
■番人:
死へ!
■ロベルト:
死へ!死へ!
不幸な女、あなたの望みが消えた
でも諦めてはいけない
神様が聞き届けてくださる
血と涙に濡れて私は
走る、飛ぶよ
あなたの救済を神様へ頼みに
天使づたいに悲しみを届けよう
天国で流される初めての涙で
■番人:
来い、首を洗って待つがいい
第3幕
第3場 ウエストミンスターの大広間
■エリザベッタ:
(そしてサラはこのようなときに
私を見捨てるのね?
侯爵邸へと急いで
サラを連れてきてグァルティエーロ
彼女の友情の安らぎが欲しい
結局私もただの女ね
怒りの炎は消えたわ)
■婦人たち:
(お顔に苦悩が滲んでいる
いつもの威厳も色を失くして)
■エリザベッタ:
(まだ望みはある
死が近づいていても
彼は指輪を差し出すわ
後悔の証しとして
でも…時が過ぎていく
時を止めてしまいたい
その女を守るため、彼が死を選んだら?
恐ろしい予感!
いまごろ断頭台へ向かっていたら
ああ、ひどい!やめて)
<ファイナル・アリア>
「女王の涙」
生きていて、恩知らず、誰かのそばで
もう許しているのよ
生きていて、ろくでなし、私を捨てて
永遠のため息の中へ
ああ、溢れるな涙
この世の人々に
イングランド女王の涙を見たとは言わせない
■エリザベッタ:
何か?
■セシル:
あの男は断頭台へ向かっています
■エリザベッタ:
(神よ!)彼から女王へと
何か預かったものは?
■セシル:
何も
■エリザベッタ:
(馬鹿な人!)
誰か来るわ
ああ、通して
■セシル:
侯爵夫人です
〔サラは指輪を女王に渡す〕
■エリザベッタ:
この指輪をどこで手に入れたの?
ふるえて、青ざめて
怪しい、一体誰が?
まさか…ああ!言いなさい
■サラ:
恐ろしい…
全て…申します…私が!
■エリザベッタ:
続けて
■サラ:
あなたの恋敵…
■エリザベッタ:
ああ!
■サラ:
お裁きください
でも、伯爵の命はお助けを
■エリザベッタ:
〔議員たちに向かって〕
ああ!行け、ああ!飛べ
生きて彼を戻したら
この王冠を望むがいい
■廷臣たち:
神よ、彼にもまだ希望が…
■ノッティンガム:
彼は死にました!
■議員たち:
恐ろしい
■エリザベッタ:
〔サラに近づき、怒りに震えて〕
この愚か者
お前が彼を殺したのよ!
なぜもっと早く指輪を持って来ないの?
■ノッティンガム:
私が、女王陛下、私がしたことです
私の名誉は傷つけられました
だから血で清めたのです
「女王陛下狂乱の場」
■エリザベッタ:
〔サラに〕邪悪な魂!
〔ノッティンガムに〕冷酷な心!
飛び跳ねた血が天まで届く
正義を欲し、復讐を求め
怒れる死の天使が降りてくる
聞いたこともない苦しみが待つ
このような裏切り、罪悪は
恩赦にも慈悲にも値しない
最期の時に神に祈れば
もしや許されるかもしれないが
■一同:
お静まりください、王家の義務を思し召し
その人生はご自身のものではありません
■エリザベッタ:
お黙り。国も人生もないわ
下がりなさい
■一同:
女王陛下
■エリザベッタ:
静かに。見よ
〔幻影に恐れるように〕
断頭台が血に染まる
この王冠も血まみれ
死刑官が走っていく
手には彼の生首
その叫び声がまだ
空にこだましている
陽の光まで青ざめて
私の王座が墓標に変わる
降りていくわ、私を待っているのよ
離して、そうしたいの
イングランドの国王はジャコモに!
〔エリザベッタは王座に座り、
指輪に口づけして目を閉じる〕
-終わり-
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