4 《ロベルト・デヴェリュー》日本語訳

2007年5月16日 (水)

一応、完成

●ようやくドニゼッティ作曲《ロベルト・デヴェリュー》の翻訳が終わりました。

●対訳付きCDが発売されていないから仕方なく始めたのですが、このあいだ東京文化会館の音楽資料室に行ったら、対訳付きLPが所蔵されていて、何だかガッカリ…。何事にも先人はいるものですね。ベヴァリー・シルズ主演の全曲版LP(1977年発売)で、タイトルは《ロベルト・デヴェルー》となっていました。

●この作品はタイトルの表記がまちまちで、イタリア語読みだと《ロベルト・デヴェルー》になるらしいのですが、一般的には《ロベルト・デヴリュー》と書かれることが多いですね。来年のグルベローヴァ来日公演では《ロベルト・デヴェリュー》と表記されるようですので、グルベローヴァに敬意を表して、このブログでも《ロベルト・デヴェリュー》と書くことにします。

●私は加入していないのですが、スカパー!のクラシカジャパンで先月、グルベローヴァ主演の《ロベルト・デヴェリュー》を放送していました。だんだん盛り上がってきて…ますかね?

●私の翻訳は、

・基本的に、NIGHTINGALEから出ているグルベローヴァ主演盤CDのリブレットに基づいています。詞章の繰り返しは、CDでは演奏している部分も含めて、ほとんど省略して翻訳しています。

・かなりの意訳となっています。

2006年8月17日 (木)

《ロベルト・デヴェリュー》日本語訳

ドニゼッティ《ロベルト・デヴェリュー》

台本:サルヴァトーレ・カンマラーノ

日本語訳:ふくきち 

第1幕

第1場 ウエストミンスター宮殿の大広間

■婦人たち:

見て、彼女を

何て青ざめた顔

ひどい悲しみが心を埋め尽くしているのね

〔サラに近づいて〕

サラ、侯爵夫人、そんなに悲しまないで

なぜ悲しんでいらっしゃるの?

■サラ:

悲しんで…?

■婦人たち:

泣いているのでしょう?

■サラ:

(ああ、いつの間に…)

ロザムンドの悲劇を読んでいたものですから

■婦人たち:

そんな本を読むのはおよしなさい

あなたの悲しみが増すばかりよ

■サラ:

私の悲しみ?

■婦人たち:

そう、私たちに打ち明けてみて

■サラ:

それでは、あなたたち本当に…

■婦人たち:

さあ、信用して

■サラ:

私が?いいえ、私は悲しんでなどいないわ

■婦人たち:

(無理に笑った顔は泣き顔より痛々しいわね)

■サラ:

<ロマンス>

「涙の甘美」

(涙の甘美、それは

苦しむ者に残された唯一の慰め

今の私には泣くことさえも許されない

私の運命はあなたの運命より残酷よ、ロザムンド

あなたは処刑されたけれど

私は死んだまま生きていくの)

〔エリザベッタの登場〕

■エリザベッタ:

あなたの夫の強い要望で

もう一度、伯爵に会うことにしました。ついに…

でも、彼に会うのはこれが最後だとか

彼の裏切りを知ることになるとか

そんなことは信じません

■サラ:

彼はいつでも女王陛下に忠実でしたが…

■エリザベッタ:

女王陛下に忠実?

それは確かなの?サラ

私には、彼が忠実だという確証が必要なのよ

■サラ:

(恐い…)

■エリザベッタ:

あなたには全て話しましょう

強い疑いに苛まれているのです

私の命令で、彼はアイルランド沿岸に行きました

私は彼をロンドンから遠ざけたかったのです

…彼は反逆の罪でここに戻ってくる

でも、私が恐れているのは彼の別の罪

もし彼が他の女を愛していたら

ああ、何てこと、ああ!

絶対に許さない

■サラ:

(消えてしまいたい)

■エリザベッタ:

私からロベルトを盗むのは

この王冠を盗むのと同じ罪よ!

<カヴァティーナ>

「愛の贈り物」

彼の愛が救いだった

天からの贈り物のような

愛することは、王座よりも偉大な喜び

ああ、もし裏切られていたとしたら

あの心がもう私のものでないとしたら

人生の喜びは全部、悲しみと苦しみに変わるのだわ

■セシル:

議会を代表して参りました

■サラ:

(体が震える!)

■エリザベッタ:

聞きましょう

■サラ:

(女王陛下のお顔に憎悪の影が!)

■セシル:

反逆の罪でエセックス伯を捕らえました

女王陛下があまりにご寛大なので裁判が進みません

判決を申し渡すこと

裏切りの計画を阻止すること

これは議会の権限です

この権限の行使に女王陛下のご同意を

■エリザベッタ:

議員、彼の罪には別の確かな証拠が必要です

■召使い:

エセックス伯が謁見を願っております

■セシル、グァルティエーロ、サラ:

彼が…

■セシル、グァルティエーロ:

(ああ、怒りがこみ上げる)

■エリザベッタ:

通しなさい。聞きたいことがあります

■サラ:

(耐えられない)

「あの頃のあなたのままで」

■エリザベッタ:

(ああ、ふたり幸せだった頃のあなたのままで戻ってきて

そうすれば何も恐れることはないのよ

この国が、いえ全世界があなたに死刑を求めたとしても

あなたが私を愛してくれるなら

必ず無実に翻してみせるわ)

■サラ:

(もし天が彼の味方をするなら、それは私にとって悲劇です)

■セシル、グァルティエーロ、廷臣たち:

(彼の運命はまだ決まっていない)

■エリザベッタ:

(来て、来て、早く

ああ、ふたり幸せだった頃のあなたのままで戻ってきて

そうすれば何も恐れることはないのよ

この国が、いえ全世界があなたに死刑を求めたとしても

あなたが私を愛してくれるなら

必ず無実に翻してみせるわ)

■ロベルト:

女王陛下、お足元に馳せ参じました

■エリザベッタ:

ロベルト!

伯爵、立ちなさい

〔セシルに向かって〕

議会への返事はすぐにします

皆さん、一旦退出を

〔ロベルト以外、全員退出する〕

疑わしい人、私の前に戻ってきたのね

それで、お前は私を裏切ったの?

この頭の、由緒ある王冠を奪い取るつもり?

■ロベルト:

傷だらけの私の胸をご覧ください

女王陛下の敵が残した剣の痕跡

これでお分かりいただけるはずです

■エリザベッタ:

しかし告発が…

■ロベルト:

告発とは何のことです?

反逆軍を戦場から逃がしたのは、敗者に情けをかけただけ

それが私の罪なのですか

女王陛下のご命令で断頭台が用意されたというわけですね

この私のために

■エリザベッタ:

女王陛下のご命令…

ぶしつけな男、言葉に気をつけなさい

私の命令があるから、お前はこうしていられるのよ

けれど、断頭台とは何のことかしら

厳しい法の裁きも、お前を死へ追いやることはできません

私の軍隊がカディスに攻め込む

その知らせのラッパが鳴ったとき

お前は遠くで、嫉妬や怒りをかって

失脚させられることを恐れていたのね

〔ロベルトの指にはめられた指輪を見て〕

私があげた、その指輪!

あげたときに言ったわね

その指輪を差し出せばいつでも

王家の加護を保証するって

ああ!指輪を見たらよみがえったわ

希望に満ちた甘い日々

ああ、思い出すわ

<二重唱>

「人生は愛の夢」

■エリザベッタ:

優しい心が私を幸せにした

言葉にならない喜びがあることを知った

人生は愛の夢

でも、その夢は消え去り、心は変わっていく

■ロベルト:

(王座なんてどうでもいい

人生は私に微笑まなかった

世界は静かで空しい

王冠の宝石も輝きをなくしている)

■エリザベッタ:

黙ったままなの?

〔優しく叱るように〕

それでは、あれは本当なのね

あなたは変わってしまったのね?

■ロベルト:

いいえ、何を仰っているのですか!

女王陛下の一言で軍隊は立ち上がり

すぐさま敵と戦います

私の服従と勇気の証しをご覧にいれます

■エリザベッタ:

(それは愛の証しではないわ!)

〔平静を装って〕

戦いが好きなのね。でも教えて

お前はその目を涙に濡らしたことはないの?

■ロベルト:

(ああ、どういうことだ?)

■エリザベッタ:

危険に身をさらすとき

胸の高鳴りを感じたことは?

■ロベルト:

胸の高鳴り?

■エリザベッタ:

誰かとの愛に燃えた、その胸の

■ロベルト:

ああ!それではご存じなのですね?

(しまった、私は何を言っているんだ)

■エリザベッタ:

それで?続けて

打ち明けてみて

何を遠慮しているの?さあ、さあ

愛する人の名前を言ってごらんなさい

私が二人を取り持ってあげましょう

■ロベルト:

誤解です

■エリザベッタ:

(ああ、恋敵め!)

〔恐ろしいまでの威厳を持って〕

お前は恋していないの?さあ!

■ロベルト:

私が?いいえ

「恐ろしい閃光」

■エリザベッタ:

(閃光、恐ろしい閃光が目をかすめる

罪深い女を逃しはしない

不実な裏切り男は死ぬのよ

彼は苦しんで死ぬの

その苦しみを通じて、自惚れ女を処刑してやるわ)

■ロベルト:

(隠して、鎮めて、胸の高鳴り

哀れな私の心臓よ

涙だけに濡れた報われぬ愛

疑いの犠牲はどうか私だけに…

秘密の愛が、私の死を見守るだろう)

女王陛下!

■エリザベッタ:

それで?続けなさい

伯爵!

■ロベルト:

女王陛下!

■エリザベッタ:

恋していないの?

■ロベルト:

私は恋などしていません

(隠して、鎮めて、胸の高鳴り

哀れな私の心臓よ

涙だけに濡れた報われぬ愛

疑いの犠牲はどうか私だけに…

秘密の愛が、私の死を見守るだろう)

■エリザベッタ:

(死刑!

その苦しみを通じて、自惚れ女を処刑してやるわ)

〔エリザベッタは自分の部屋へ去る〕

■ノッティンガム:

ロベルト!

■ロベルト:

君か

■ノッティンガム:

顔が青いぞ!ああ、もしかしたら…

聞くのが恐い

■ロベルト:

女王陛下はまだ処刑を決めていない

でも、その恐ろしい目をみたら

私の血を求めているのが分かった

■ノッティンガム:

やめろ、僕は不安で一杯なのに

■ロベルト:

ああ、もう放っておいてくれ

彼女とふたり幸せに暮らして

不幸な私のことなど忘れるのだ

■ノッティンガム:

何を言ってる?

ああ、どうぜ僕は君の親友にもなれず

幸せな夫にもなれないんだ

■ロベルト:

何だって?

■ノッティンガム:

僕には分からない悲しみがサラを苦しめている

彼女はもう死にそうなんだ

■ロベルト:

(彼女は私を裏切った、でも可哀相だ)

■ノッティンガム:

昨日は静かな日だった

いつもより早く眠りについた

ふと目を覚まし、彼女がよく使う部屋の前を通った

すると抑えた泣き声が聞こえてくる

彼女は、青いスカーフに金の糸で刺繍していた

でも、泣いて手を止める、そして呟くんだ「死にたい」って

恐くなって僕は逃げ出した

何が何だか分からない、気が狂いそうだ

<カヴァティーナ>

「涙のわけ」

彼女は泣いている方が普通なんだ

あまりにも感じやすくて

その悲しみと一つになりたいと思った

苦しくて僕も泣いたよ

けれど分からない、彼女の涙のわけ

ときどき「ひょっとしたら」と疑う

けれど、すぐに消えてしまう

天使の心の中までは

誰も見ることができないのだから

■セシル:

来たまえ、侯爵

女王陛下が議会を招集された

■ノッティンガム:

議題は?

■セシル:

延ばされすぎた判決について

■ノッティンガム:

すぐに行こう。友よ!

■ロベルト:

君の目が涙に濡れている

私のことは放っておいてくれ

■セシル:

来たまえ

「聖なる声(サンタ・ヴォーチェ)」

■ノッティンガム:

君を助けたいんだ

みんなが君を裏切り者と言う

恐ろしい運命に取りつかれた君

けれど僕は信じよう

天も地も味方してくださる

命も名誉も僕が守る

神よ、この唇から聖なる友情の声を!

■ロベルト:

(わたしほど苦しんでいる者はいない)

■廷臣たち:

(高慢な男は罪を償うことになる)

来い、侯爵、来い、来い

第1幕

第2場 ノッティンガムの館公爵夫人の居間

■サラ:

静かだわ…、この心の中にだけ、私を責める声が!

でも私は無実、分別があります

愛ではありません

ロベルトの危険が私の危険を忘れさせる…

誰か来たわ

あなたね!

■ロベルト:

ひどい人だ、あんなに愛し合っていたのに

嘘だったのか!裏切り者!浮気者!

どんなになじっても足りやしない

■サラ:

聞いて。あなたが遠くに行ったあと

父が亡くなったの

「孤独になったお前には、守ってくれる人が必要ね」

女王陛下が仰ったわ

「私が良い縁談をまとめてあげましょう」

■ロベルト:

それで君は?

■サラ:

断ったわ。無理やり連れて行かれたのよ

初夜のベッドへ…いえ

死のベッドよ!

■ロベルト:

ああ神様!

■サラ:

私は幸せじゃないけれど、あなたには幸運だった

女王陛下を愛するのよ、ロベルト

■ロベルト:

ああ、言うな!

死ぬほど君を愛してるんだ

■サラ:

あなたのしている指輪

王家の愛の印ね

■ロベルト:

愛の印?何も知らないくせに

これで疑いも晴れるだろう

〔指輪をテーブルに投げる〕

君のためなら千回でも命を投げ出すよ

■サラ:

ロベルト、サラの一生のお願いよ

■ロベルト:

それならいっそ私の血を望んでくれ

全て流そう、君のために

■サラ:

海から逃げて、そして生きていて

■ロベルト:

それは本気なのか?

ああ、信じられない

■サラ:

私を愛しているなら

もう会わないで、永遠に

■ロベルト:

永遠に!

サラの心がこんなに変わっていたなんて

私のことが嫌いなのか

■サラ:

ひどい人!

死ぬほど好きよ

<二重唱>

「焼けぼっくいの二重唱」

■サラ:

あなたが戻ってから、惨めだった

弱虫なこの心

消えかかった炎が再び燃え始めた

ああ、行って!ああ、遠くへ!ああ、私を捨てて!

どんな運命が待っていても

生きていて

もう私を傷つけないで

■ロベルト:

ここはどこだ?おかしくなりそうだ

生死をさまようみたいに…

君は私を愛してる

そして私は君を失う

偉大なる力よ、私に強さを与えてくれ

人の心には始めから

そんな強さはありはしないから

もう涙を拭いて

分かった、逃げるよ

■サラ:

誓って!

■ロベルト:

誓おう!

■サラ:

いつ逃げるの?

■ロベルト:

静かな闇が訪れたら

夜のとばりに紛れて

今は駄目だ

夜明けの光が…

■サラ:

ああ、危ないわ、早く

誰かに見つけられたら!

■ロベルト:

恐ろしい

■サラ:

最後に

不幸な愛の印

これを持っていって

〔スカーフを渡す〕

■ロベルト:

ああ、ここに

この傷づいた心の上に掛けていこう

■サラ:

行って!神様に祈るときだけ私を思い出して

さようなら!

■ロベルト:

永遠に!

■サラ:

ああ、さみしい

■ロベルト:

ああ、残酷な運命

「最後の最後のさようなら」

■サラ&ロベルト:

この「さようなら」が最後の最後

悲しみの水底

心をひたす灼熱の涙

ああ!私たちはもう二度と会わない

もう二度と

死んでいくような気持ちがする

別れの言葉に、一生分の悲しみをこめて

第2幕 ウエストミンスターの大広間

■廷臣たち:

時は過ぎ、夜が明けた

議会は続いている

女王が助けぬ限り

彼の破滅は確定する

■婦人たち:

静かに、みなさん。エリザベッタは

復讐に取りつかれ

焦り、さまよっています

何も聞かず、何も言わず

■廷臣たち:

哀れな伯爵!

怒れる空から

たれこめる黒雲

運命は決まった

沈黙の中で

死が口を開く

■エリザベッタ:

それで?

■セシル:

被告の運命について

長く議論されました

友情からなのか

伯爵は熱心に彼をかばいました

しかし無駄

伯爵自身が判決文を持ってきます

■エリザベッタ:

それで判決は?

■セシル:

死!

■グァルティエーロ:

女王陛下

■エリザベッタ:

議会をもう一度

ここに召集しなさい

〔グァルティエーロとエリザベッタを残し一同去る〕

遅かったわね

■グァルティエーロ:

夜明けまで彼が

邸宅へ戻らなかったのです

■エリザベッタ:

続けて

■グァルティエーロ:

彼は丸腰でした

秘密の手紙など隠していないか

調べているうちに

部下が彼の胸から

絹のスカーフを見つけました

没収を命じると

狂ったように怒り

「この心臓を裂いてからにしろ」

…しかし抵抗も無駄でした

■エリザベッタ:

そのスカーフは?

■グァルティエーロ:

ここに

■エリザベッタ:

(許せない

愛の証し…)

私の前に引き連れよ

千の怒りがこの胸に!

<二重唱>

「助命の二重唱」

■ノッティンガム:

こんなに悲しい気持ちで

拝謁するのは初めてです

不幸な任務により

〔証書を手渡す〕

エセックス伯の判決です

臣下ではなく彼の友人として

申します、彼に代わって

「お慈悲を!」

断れますか

エリザベッタの御心が?

■エリザベッタ:

この心はすでに

彼の死刑を決意しました

■ノッティンガム:

何てお言葉!

■エリザベッタ:

まだ知れぬ恋敵の家へ

行っていたのよ彼は

そう、まさに今夜

私を裏切って

■ノッティンガム:

何を仰って…

それは間違いです

■エリザベッタ:

もうやめて

■ノッティンガム:

誰かの罠だ

■エリザベッタ:

いいえ、間違いないわ

裏切りの

確かな証拠が

〔死刑宣告にサインする〕

■ノッティンガム:

何を!お待ちください…お聞きを

どうか怒りの炎を彼に落とさないでください

これまでの私の忠義にお応えください

泣いてお願いします

陛下の足元にひれ伏して

■エリザベッタ

お黙り。慈悲、情け、

いいえ、不実者には無用だわ

裏切りは明白となった

死刑、

慈悲を乞ううめき声さえさせずに

<三重唱>

「死刑宣告の三重唱~死は首の上に」

(来たわね軽薄者)

近くへ

高慢な顔をあげなさい

お前に何と言った?思い出して

「恋していないの?」言ったわね、伯爵

「いいえ」応えたわね、「いいえ」「いいえ」

裏切り者、卑怯者、大うそつき

私の沈黙の告発者よ

見るがいい、死の恐怖が

彼の心臓を捕らえるわ

〔スカーフを見せる〕

■ノッティンガム:

何!

〔気づいて〕

(恐ろしい光が!

…サラ)

■エリザベッタ:

やっと分かったか!

■ロベルト:

(神よ!)

■エリザベッタ:

不実な魂、醜い心

逆鱗に触れたわね

地獄の炎に焼かれる前に

畏れ多きエンリーコ八世の

娘に背信する前に

生きながら墓に埋まればよかったのよ

おお、裏切り者

■ノッティンガム:

嘘だ…狂ってる

恐ろしい、悲惨な夢

いいや、人の心が

こんなふうに裏切れるはずはない

なのに彼は青ざめていく

ああ!何て目で見るんだ

百の罪が透けて見える

その目に、その顔に

■ロベルト:

過酷な運命に終わりはないのか

だが自分のことはいい

あの不幸な女の危険が

私の勇気を挫けさせる

彼の険しい眉毛に

殺意が走っている

ああ、あのスカーフは死の印

愛ではなかった

■ノッティンガム:

悪人め!心の奥に

そんな悪意を隠していたのか

そこまで裏切れるものなのか…

女王陛下を?

■ロベルト:

(地獄の苦しみ!)

■ノッティンガム:

剣、剣だ今すぐに

臆病者を引き渡せ

奴の体を引き裂いて

その血で罪を清めてやる

■エリザベッタ:

おお我が忠臣よ、お前にも分かるのか

この身を震わす屈辱が

〔ロベルトに〕

よく聞ききなさい

処刑台は用意済み

その女の名前を言えば

命ばかりは助けてやるわ

言いなさい、言うのよ!

〔一瞬の沈黙〕

■ノッティンガム:

(運命の一瞬!)

■ロベルト:

いっそ死刑に!

■エリザベッタ:

頑固者!いいわ

〔女王の合図で、

議員、婦人、従者、護衛たちが入ってくる〕

皆の者、聞きなさい

私は議会からその男の

死刑宣告を受け取り

同意しました

よいか、

昇り始めた太陽が

天頂に達したとき

大砲の音を響かせて

それを処刑の合図とせよ

■廷臣たち:

(悲しみの日、唐突な死)

■エリザベッタ:

行け!

行け、死は首の上に

恥は名前の上に

墓は私が用意しよう

誰も泣きには行かせない

罪人どもの遺灰の中に

お前の遺灰を撒いてやるわ

■ロベルト:

斧はこの血に塗られても

恥にまみれることはない

女王の怒りが奪えるものは

名誉ではなく命だけ

■ノッティンガム:

いいや、剣では殺さない

不名誉な悪人は

断頭台に消えるのだ

そんな苦しみくらいでは

胸の怒りは納まらないが

■セシル&グァルティエーロ:

斧がその首の上に…

お前の名前も呪われた
■廷臣たち:

墓の中でさえ罪人は

安らぐことはできないだろう

〔エリザベッタの合図でロベルトは取り囲まれ、

連れて行かれる〕

第3幕

第1場 ノッティンガムの宮殿

■サラ:

夫はまだ帰ってこない

■召使い:

奥様!

近衛兵がひとり訪ねてきました

かつてロベルトの配下だった者です

手紙を持っていて

奥様に手渡したいと

■サラ:

通して

〔兵士が黙って夫人に手紙を渡す。

そして兵士と召使いは去る〕

〔彼女は急いで手紙を読む〕

■サラ:

ロベルトからだわ

何てひどい

死刑判決が下された

でも私は知っている、この指輪の力を

彼の命を約束するはず…

こうしてはいられない

今すぐエリザベッタの許へ

■サラ:

(侯爵!

何て怖い顔)

■ノッティンガム:

手紙を受け取ったな?

■サラ:

(神様!)

■ノッティンガム:

サラ!見せろ

■サラ:

あなた

■ノッティンガム:

あなた、か

命令だ、手紙を出せ

■サラ:

(終わりだわ)

■ノッティンガム:

〔手紙を見て〕

ではお前には

奴の命を救う手段があるな

宝石を受け取ったのか!いつだ?

昨夜、愛の印として

金の刺繍のスカーフを

奴の胸に掛けた時か?

■サラ:

ああ何てこと

全部知っているのね

■ノッティンガム:

そうだ、全部だ

お前は知らなかったのか

裏切られた者には復讐の神がついている

罪びとの悪は全て暴かれる

嘘つき女、恐れるがいい

ここにいる復讐の神を

■サラ:

ああ、殺して

■ノッティンガム:

まだだ、裏切り者

ロベルトが生きているうちは…

友のためにこの胸に

温めていた甘い愛

まるで神聖なもののように

ああ、私は妻を愛していた

奴らのために死ぬほどの苦しみ

裏切り者は誰だ?ああ惨めな!

友と妻だ!

馬鹿な女!泣いても無駄だ

流すのは血、涙じゃない

■サラ:

過酷な運命はこんなにも

私たちを責めるの

無実の人が罪びとになるなんて

この心をご存じの神様

友は悪人ではないと夫に教えて

そして私の心も体も

裏切ってはいないことも

〔処刑の行進が聞こえる〕

死を告げる音?

〔警護に囲まれたロベルトが遠くに見える〕

■ノッティンガム:

奴が処刑台へ連行される

■サラ:

震えが血管を流れていく

断頭台が立てられた

時が近いわ

神様、助けて

■ノッティンガム:

待て!

どこへ行く?

■サラ:

女王陛下の許へ

■ノッティンガム:

まだ奴を助ける気か

■サラ:

行かせて

〔振り払おうとして〕

■ノッティンガム:

馬鹿な!それほど!…おい!

〔侯爵邸の衛兵たちが来る〕

館をこの女の監獄にしろ

■サラ:

ああ神様!

許して

私を壊す悲しみを見て

一瞬だけ許してください

誓うわ、逃げません

すぐに戻ります

その時にお望みならば

百回でも私を刺して

私を刺すあなたの手に感謝するわ

■ノッティンガム:

汚された私の誇りが

恐ろしく燃える、吼える

お前の言葉の全て

お前の涙の全てが罪

ああ、苦痛が短すぎる

奴が死ぬだけでは

神よ!私を裏切った魂に

永劫の苦しみを!

第3幕

第2場 ロンドン塔の監房

■ロベルト:

そしてまだ扉は開かないのか

恐ろしい予感が!

いや、あの使者は頼れる奴

指輪で助けてくれるはず

戦場でもあの指輪があれば怖くなかった

サラの潔白を明かすまで私は死ねない

私から最愛の女を奪った君よ

君の剣にかかって死のう

私を斬るのは君しかいない

<アリア>

「監獄のアリア~天国の涙」

泣きながら君に言おう

死神に抱かれて…

天使の魂のように

君の彼女は清らかだ

誓う、私の血潮を証しにして

この唇の最後の言葉を信じてほしい

いまわの言葉に嘘はつけない

〔足音が近づいてくる

鍵を回す微かな音〕

鍵の音

そうだ扉が開く

ああ!許しが出たのか

■番人:

来い、伯爵

■ロベルト:

どこへ?

■番人:

死へ!

■ロベルト:

死へ!死へ!

不幸な女、あなたの望みが消えた

でも諦めてはいけない

神様が聞き届けてくださる

血と涙に濡れて私は

走る、飛ぶよ

あなたの救済を神様へ頼みに

天使づたいに悲しみを届けよう

天国で流される初めての涙で

■番人:

来い、首を洗って待つがいい

第3幕

第3場 ウエストミンスターの大広間

■エリザベッタ:

(そしてサラはこのようなときに

私を見捨てるのね?

侯爵邸へと急いで

サラを連れてきてグァルティエーロ

彼女の友情の安らぎが欲しい

結局私もただの女ね

怒りの炎は消えたわ)

■婦人たち:

(お顔に苦悩が滲んでいる

いつもの威厳も色を失くして)

■エリザベッタ:

(まだ望みはある

死が近づいていても

彼は指輪を差し出すわ

後悔の証しとして

でも…時が過ぎていく

時を止めてしまいたい

その女を守るため、彼が死を選んだら?

恐ろしい予感!

いまごろ断頭台へ向かっていたら

ああ、ひどい!やめて)

<ファイナル・アリア>

「女王の涙」

生きていて、恩知らず、誰かのそばで

もう許しているのよ

生きていて、ろくでなし、私を捨てて

永遠のため息の中へ

ああ、溢れるな涙

この世の人々に

イングランド女王の涙を見たとは言わせない

■エリザベッタ:

何か?

■セシル:

あの男は断頭台へ向かっています

■エリザベッタ:

(神よ!)彼から女王へと

何か預かったものは?

■セシル:

何も

■エリザベッタ:

(馬鹿な人!)

誰か来るわ

ああ、通して

■セシル:

侯爵夫人です

〔サラは指輪を女王に渡す〕

■エリザベッタ:

この指輪をどこで手に入れたの?

ふるえて、青ざめて

怪しい、一体誰が?

まさか…ああ!言いなさい

■サラ:

恐ろしい…

全て…申します…私が!

■エリザベッタ:

続けて

■サラ:

あなたの恋敵…

■エリザベッタ:

ああ!

■サラ:

お裁きください

でも、伯爵の命はお助けを

■エリザベッタ:

〔議員たちに向かって〕

ああ!行け、ああ!飛べ

生きて彼を戻したら

この王冠を望むがいい

■廷臣たち:

神よ、彼にもまだ希望が…

■ノッティンガム:

彼は死にました!

■議員たち:

恐ろしい

■エリザベッタ:

〔サラに近づき、怒りに震えて〕

この愚か者

お前が彼を殺したのよ!

なぜもっと早く指輪を持って来ないの?

■ノッティンガム:

私が、女王陛下、私がしたことです

私の名誉は傷つけられました

だから血で清めたのです

「女王陛下狂乱の場」

■エリザベッタ:

〔サラに〕邪悪な魂!

〔ノッティンガムに〕冷酷な心!

飛び跳ねた血が天まで届く

正義を欲し、復讐を求め

怒れる死の天使が降りてくる

聞いたこともない苦しみが待つ

このような裏切り、罪悪は

恩赦にも慈悲にも値しない

最期の時に神に祈れば

もしや許されるかもしれないが

■一同:

お静まりください、王家の義務を思し召し

その人生はご自身のものではありません

■エリザベッタ:

お黙り。国も人生もないわ

下がりなさい

■一同:

女王陛下

■エリザベッタ:

静かに。見よ

〔幻影に恐れるように〕

断頭台が血に染まる

この王冠も血まみれ

死刑官が走っていく

手には彼の生首

その叫び声がまだ

空にこだましている

陽の光まで青ざめて

私の王座が墓標に変わる

降りていくわ、私を待っているのよ

離して、そうしたいの

イングランドの国王はジャコモに!

〔エリザベッタは王座に座り、

指輪に口づけして目を閉じる〕

-終わり-

《ロベルト・デヴリュー》

私、9月末に海外旅行に行く予定です(名づけて「ヨーロッパ・魅惑のベルカントオペラツアー!」)。グルベローヴァの《ロベルト・デヴリュー》も観てくるつもりで、予習をしておこうと思ったのですが、この作品の日本語訳が見当たらない…。そこで、もういっそ、自分で訳すことにしました。断片的にUPしていきます。9月下旬の出発までには、なんとか完成させたいと思っています。普段このブログで、オペラの字幕の悪口ばかり書いているので、ちょっと困りますけど…。

・私はイタリア語も英語も喋れませんので、「何となくこんな感じ」という想像力で訳しています。間違っていても怒らないで!

・かなりの意訳です。